上:'con grazia'/下:'ad libitum' (いずれも「danza margine」より)
『hi→』2012年冬号(12月下旬発行予定)では、写真家の村松桂さんをアートワークにお迎えします。
村松さんは、フォトコラージュ・フォトモンタージュ・多重露光といった手法を採用し、幾つものイメージを重ね合わせることで、静謐でありつつも豊饒な美しい世界を表現されています。今回は、村松さんが11月25日から東京で個展「danza margine」を開催されるにあたり、hi→からインタビューをさせて頂きました。
冬号のアートワークを楽しみにして頂くとともに、ぜひ、個展へ足を運ばれてみてください。(聞き手:西丘)
村松さんは、フォトコラージュ・フォトモンタージュ・多重露光といった手法を採用し、幾つものイメージを重ね合わせることで、静謐でありつつも豊饒な美しい世界を表現されています。今回は、村松さんが11月25日から東京で個展「danza margine」を開催されるにあたり、hi→からインタビューをさせて頂きました。
冬号のアートワークを楽しみにして頂くとともに、ぜひ、個展へ足を運ばれてみてください。(聞き手:西丘)
―――今回の個展は、ダンスをテーマにされています。ダンス、またはダンスを撮ることについて、どのような思いがあったのかお聞かせください。
ダンスやバレエは前々から作品に取り入れてみたかったテーマのひとつです。前々回の個展(「echo song ( movie stills )」)では「映画」をテーマにしたのですが、映画にしろダンスにしろ、なにか動的なものを静的な写真で表現することに、今は強く惹かれています。一度「踊られた」しぐさを、時間的に静止させてしまうこと、でもいわゆる「一瞬をとらえる」ような写真ではなくて多重露光という手法を使って。それと、今回写っている踊り子たちはすべて古い雑誌などを切り抜いてもう一度写真にとったものなのですが、そうすることで「動」と「静」が入れ子状態になれば良いなと思ってそうしました。
―――「danza margine」(=「境界線の上で踊る」)という個展のタイトルが印象的です。村松さんは、「境界」に以前から関心を持たれているようにお見受けします。写真集「Natura naturata」の前書きでは、芸術のジャンルを分ける境界について、「イメージを重ね続けることで私が見たかったものは、この境界が消失する瞬間なのではなく、これからも平行に存在し続ける境界、埋められない溝であったに違いない」と書かれていました。なぜ、「境界」に惹かれるのでしょうか。
たぶん、そもそもはやっぱり「見る」ということを考えた末に生まれてきた関心なんだと思います。それから、すべてのものをジャンル分け・分類するという、人間の認識の仕方への関心、疑問です。「見える」と「見えない」の違いって何だろう、から始まって、「動いているもの」「止まっているもの」の違い、「話された言葉」や「音」と「歌」「音楽」の違い。動と静に関して言えば、いま例えば目の前にコップがあるとして、それは人間の目には止まっているように見えるけれど、宇宙的に言ってみれば地球の自転とともに動いているわけだし、それから分子的に見れば、時間とともにほんの少しづつ、崩壊の方へ進んでいっている。そう考えてみると、動と静をわけるもの、境界線はどこにあるのか分からなくなってしまって。でも、なにか別々のものがお互いを意識して、歩み寄ろうというとき、初めから全てがひとつで同じものだったら、その先がないような気がしたんです。「これ」と「それ」は違う、ということを認識してはじめて、「これ」と「それ」を結びつけることができるというか。それは「同じ」という前提からはじめて、そこに違いを見つけていくことより楽しいことであるに違いない、と思いました。こうやって、「境界」とか「差」についてあれこれ考えたことをいちばんストレートに出したのが前回(「Natura naturata」)の時なのですが、答えが見つかるようなことでもないので、まだしばらく考え続けてしまいそうです。
―――前回の個展(「Natura naturata」)の作品より、明度を抑えられている印象があります。
そうですね。前回はモノの輪郭線をなるべく曖昧にしたかったので、わざと明るめにしました。絵の具の黒とは違う、写真の黒がとても好きなので、どちらかと言うと黒っぽい作品のほうが多いと思います。
―――村松さんの作品を拝見していると、どこからか音楽が聞こえてくるような気がすることがあります。ご自身の作品と音楽性について、何かお感じになっていることがあれば教えてください。
そう言っていただけるととても嬉しいです。今回写真集のあとがきにも書きましたが、音楽に対してはとても強い憧れのようなものがあって…。でもなにか特定のジャンルの音楽に対してとか、ミュージシャンになりたいとかではなくて、音楽が持つ特権的な領域に対する憧れというんでしょうか。ウォルター・ペイターが音楽の"状態"に憧れると言ったのは、まさにその通りだと思います。もちろん、写真であることの意味というか、写真だからこそできるものを追い続けていきたいと考えていますが、絵にしろ写真にしろ、素晴らしい 作品というのはそれを見た時に違った領域の何かを想起させるものだと思うんです。音楽や音でもいいし、本の中の一節とか、冬の日のにおいとか…。「見る」という感覚を突き詰めていってそんな作品が作れたら、いちばんいいなと思っています。
―――ご自身の作品の多くをモノクロで撮られています。村松さんにとって、写真における「色」あるいは「モノクロ」はどのような意味を持っていらっしゃいますか。
色も音も同じ「波」であることを考えたりするのは、とてもロマンティックな気持ちになるので好きなのですが、どうしても写真の中の色というと、今のところ不要なものに感じてしまいます。写真で作品を作るとき、やはり自分自身をいちばん驚かせたいし、自分が見たことのないものを見たい、と思ってしまうので、ふだん色のついた世界に生きているせいで、モノクロの方へ気持ちが向いてしまいます。それから、今のところモノの形のほうに大きな関心があるので、色のことまで頭が回らない、といった感じです。でもいずれはもう少し真剣に「色」と向き合う時間が必要でしょうし、もっと色と仲良くなりたいと思っています。
―――今後、撮ってみたいテーマ・関心のあるモチーフなどがありましたらお聞かせください。
いま関心があるのは「静物」です。何かがきちんと写っているはずなのに、何が写っているのかわからないような、そんな少し奇妙な静物写真が撮ってみたい。それから2冊出しただけで止まってしまっているフリップブックも、本腰を入れて取り組みたいです。
―――本日はありがとうございました。
****** 村松桂さん 写真展「danza margine」******
2011.11.25.(金)- 12.10.(土) LOWER AKIHABARA.
11:00~19:00 open/日・月曜休廊
詳細は⇒こちら
【レセプション】初日11.25.(金) 18:00~20:00
藍原ゆきさん(ヴィオラ・ダ・ガンバ)と秋山幸生さん(テオルボ、バロックギター)による演奏あり[入場無料]
******作家プロフィール******
村松 桂(むらまつ かつら)
1978年東京生まれ
日本大学芸術学部写真学科卒業
[展覧会]
2009 個展 「Natura naturata」森岡書店
2009 グループ展 「アトリエ空中線10周年記念展-
インディペンデント・プレスの展開」ポスターハリスギャラリー
2007 個展 「echo song (movie stills)」啓祐堂ギャラリー
2004 個展 「Kosmokrator」アートスペース美蕾樹
[作品集]
2009 accordion posters 「Natura naturata」
2007 movie stills 「echo song」
2007 flip book 「Breathe In Peace 2 "kanon"」
2005 flip book 「Breathe In peace 1 "tact"」
2004 tarot card book 「Kosmokrator」
http://hellerraum.nobody.jp/